2025.8.2 響きのかたち - フランス音楽を通して
- keizo hibi
- 10月13日
- 読了時間: 6分
更新日:9 分前
日比恵三&平井陽子 Duo Concert ~巨匠たちの追憶Ⅱ~
プログラム
ラヴェル:ヴァイオリンソナタ ト長調
ドビュッシー:ヴァイオリンソナタ ト短調
休憩
サンサーンス:死の舞踏
ショーソン:詩曲
ドビュッシー:月の光
武満徹:悲歌
ストラヴィンスキー:ロシアの踊り
2025.8.2(土)江崎ホール
ヴァイオリン:日比恵三 ピアノ:平井陽子
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演奏後記:フランスプログロムを終えて
しばらく間が空いてしまいましたが、8月に行われたコンサートの演奏後記を書いていきます。
今回で7回目となる、ピアニストの平井さんとのデュオコンサートは、ほぼ満席となりお陰様で盛況のうちに終えることができました。新たなお客様も多く見え、とても嬉しく思います。
ご来場くださいました皆様、広報に協力してくださった方々、またスタッフとして動いてくれた方、ありがとうございました。
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今回の演奏会は「フランスの響きとはどういうものか」というテーマがありました。
音楽史にフランス音楽という一大ジャンルを築き上げた作曲家たちが、何を持ってフランスらしさとしたのかを探ってみたかったのです。
そこで、ドビュッシーとラヴェルのヴァイオリンソナタというヴァイオリン曲の中でも代表的なものから、サンサーンス、ショーソンと追っていき、フランスで活躍していたストラヴィンスキー、フランス音楽のフォロワーとも言える武満までというプログラムを組みました。
準備段階ではピアニストの平井さんと十数時間にもわたるリハーサルを行い、様々な研究をもとに組み立てていくのが非常に充実した時間となりました。直感的に音楽を掴みに行く一方で、しっかりと音作りをする平井さんのスタイルに、いつも刺激を受けています。
終えてみて、狙いは達成できた実感がありました。フランス音楽の色彩、躍動感、空気感、これらが何に起因するのか、それらをどう演奏に生かすのか理解を深めることができましたし、お客様と共有できたような感触も得られました。
ただ最後に短い曲を連発するこのスタイルは、何か尻切れトンボというか、一盛り上がり足りない感覚もありました。
またストラヴィンスキーと武満に関しては文脈的な背景を要する選曲であり、プログラムノートに詳しく書いたとはいえ、もう一段フォローが必要だった可能性があります。
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さて、演奏会終了後のお客さんの感想として、「フランス音楽を初めて聞いた」というようなコメントを複数いただいたのが印象的でした。
これは不思議な感想です。今の世の中、フランス音楽は随分身近なはずです。ドビュッシーやラヴェルの肖像画は小中学校の音楽室にあったように記憶しています。私の知人も多くフランスに留学しましたし、演奏会で言ったら2割くらいはフランス音楽のプログラムなのではないでしょうか。
今やフランス音楽の響きは(ワーグナーがそうであるように)我々の音楽生活の中に溶け込んでおり、近代フランスを生きた人々が当時受けたような衝撃は、(相当巧みに演奏したとしても)我々の耳では体験しえないと考えられます。
では何故フランス音楽を聴いたという実感を持ってもらえたのでしょうか。
もしかしたら"フランス音楽"という意識を持って聴く機会が意外と少ないのかもしれません。つまりはプログラムによるところも大きいのだろうと感じます。
コンサートを企画し振り返っていく中で今年良く感じたことですが、コンサートで演奏される曲同士で比較できるようになっていると、それが鑑賞のガイドになります。ガイドがあることで何を聞いているのかをより認識することができ、満足感に繋がるのではないでしょうか。
これがプログラムのテーマ性を持たせる一つの狙いです。
プログラムのテーマの種類としては、私の好きな組み方である時代や国にフォーカスするものの他に、一つの作曲家を取り上げるオール○○プログラム、複数ある同一形式の楽曲を全て弾く全曲演奏プログラムなどがあります。
学術的な意味合いと演奏効果という両方で、おそらくそれぞれ違った利点があることと思います。
ただ、オールプログラムを目にすると、「その物だけを見ていても、その物のことは良く分からないのではないか」と感じることがよくあります。
例えばオール・ドビュッシーをやれば、ドビュッシーの書いた曲は色々知ることができるし、ドビュッシーの世界を味わうことはできるかもしれませんが、何がドビュッシーをドビュッシーたらしめているかは、その演奏会だけでは発見できないことでしょう。
もう少し卑近な例にすると、音楽では音の高低差や強弱、静と動、縦と横、緊張と弛緩など、対比に細かく気を使っていることに気が付きます。絵画で言えば恐らく明暗や補色などのコントラストは基本的な考え方でしょう。
つまり、感覚は2つの物を比較してこそ活発に働くと考えられます。
そう考えるのであれば、プログラムを組む時は、ある程度何かの軸で対比できるように組むのが効果的なのではないでしょうか。
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コンサートを企画するにあたり、色々案を出す事自体も大変ですが、それを実行するには当然労力も資金もかかりますし、"演奏家がここに気を使うのは本分から外れるのではないか"といったような葛藤などもあります。それらが勝ちすぎると、取りやめる事まで一通り検討もします。
それでも続けるのは、プログラムに興味を持ってもらえたり、トークで喜んでもらえたり、プログラムノートの感想を頂いたりしたことを思い出すからです。毎回「…でもやるかぁ」となり、結局「やって良かったな」となります。
これの繰り返しですが、皆さまの感想により、様々なことを考え、それが次の原動力にも繋がっております。
あの曲は退屈だと思っていたけれど楽しめた、初めて聞いたけどいい曲だったといった感想の他、コラムが良かっただとか、プログラムノートのバックナンバーを買っていただいたりと、工夫を凝らした部分はお客さんはしっかりと拾ってくださっているなと感じます。
演奏家が演奏に気を払うのと同程度にプログラムにも気を使うことは妥当なことのように、この後記を書いていて感じました。
演奏に力を入れるのは当然として、その他の企画部分にも、これから自分自身が満足いくものを作れるよう努力していけたらなと思います。
昨年からウィーン、パリと続いたので、来年はチェコハンガリー編を考えています。
プログラムの並び的に、少しハードルが高くなってしまうかもしれませんが、是非足を運んでいただければ幸いです。
それではここまでお読みくださりありがとうございました。また次回の演奏会でお会いできることを楽しみにしています。
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