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2025.6.14 バッハとヘンデルのあいだで

更新日:11月5日

能登半島地震支援チャリティーコンサート


プログラム

バッハ:無伴奏ヴァイオリンソナタ第1番

トークⅠ - バロック音楽の性質と楽しみ方

ヘンデル:ヴァイオリンソナタ第1番

コレルリ:ラフォリア

トークⅡ - パッサカリアに衝撃を受けた話

ビーバー:ロザリオソナタより パッサカリア

ヴィタリー:シャコンヌ


2025.6.14(土) 静岡教会

ヴァイオリン:日比恵三

チェンバロ/ピアノ:小澤実々子



 能登半島地震支援のチャリティーコンサートで、今回で前回の3月に続いて2度目の開催です。前回は春の訪れをテーマにしましたが、今回はバロックプログラムとしました。


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演奏後記:教会での演奏を終えて


 バロック音楽が難しい要因として、資料の少なさが挙げられます。作曲家や作曲家を取り巻く人々の言葉や様子が、他の時代に比べて少ないのです。これらの情報は、表現を選択するときに必要不可欠なのですが、ヒントが少ないために、また違った情報の集め方をしなければいけません。


 例えば一口にバロックと言っても、曲ごとに様々な経緯があるというのはコンサート中にお話した通りですが、一つに絞って深く掘るよりも比較することで得られるヒントもありました。ヘンデルとバッハの纏う雰囲気の差がどこから生まれたものなのか、自分なりの答えを明確に持てたのは今回の収穫でした。

 このような発見は、バロックプログラムに取り組むことでしか得られないものでしょう。


 教会で演奏するという経験自体も、演奏の大きなヒントとなります。

 初めて教会で弾かせていただいたのは、記憶が正しければ2012年のクリスマス礼拝で、バッハのシャコンヌでした。教会でバロックを演奏するというのは━━恐らく多くのクラシック奏者がそうであるとは思いますが━━、私にとって非常に大切なことで、今でもその演奏によって何を感じ何を得たのかはっきりと覚えています。


 古典派やロマン派と違う次元で難易度の高いジャンルですが、研究に体験が追いつく形で理解が深められるのは得難いことです。初めて弾いた13年前も今回も、毎回様々な発見がありました。



 今回のコンサートで大きな収穫だと考えていることが2つあります。

 1つが、バッハの完成度が高まった実感があったということです。バッハの1番と言えばかれこれ15年は弾き続けてきた曲ですが、ここにきて"無理のないドラマチックさ"を出せるようになったと感じています。

 私の個人的な好みとして、バッハはドラマチックに弾きたいのですが、わざとらしかったり仰々しかったりすると台無しになってしまいます。ちょうどいい塩梅やアイディアを日ごろ模索しているわけですが、教会の会堂特有の響きを前提とした多層構造を構築するのは楽しい作業でした。

 今回最も反響があったのがバッハで、お客さんが聞き飽きるであろう程度には弾いてきた曲でこれほどの感想を貰えたのは進歩と感じています。


 2つ目がヘンデルです。

 ヘンデルのソナタというのは幼少期に教本で弾く曲で、それ以降はあまり取り組むことがない曲です。

 コンサートで弾くには簡素すぎるために、プログラムの候補に入らないのです。一般的にもしバロックのソナタを弾く必要があるなら、タルティーニの悪魔のトリル等を選ぶことになるでしょう。


 ただ教会で普段歌われる讃美歌を聞いていると、非常にシンプルな作りになっていることに気が付かされます。簡素なメロディー、リズム、ハーモニーを4,5回繰り返すのが普段礼拝の中で歌われている讃美歌であり、それで十分音楽は成り立っているのです。

 今回はチェンバロで演奏できるということもあって、勇気を出してヘンデルをピックさせていただきましたが、"音が少ないことを恐れてはいけない"というのは今回得た教訓でした。良い音で弾けばおのずと良い音楽、良い場が作られるわけですから、ヘンデルのソナタのようなシンプルな曲をプログラムにいれることを避けるのは、ただ演奏家の恐怖心によるものかもしれません。

 この気づきを得られたのはこれから様々な企画をする際に意味を持ってくることでしょう。



 今回のコンサートでは"ロザリオソナタのパッサカリアから推測できるシャコンヌが持つ意味合い"という、ちょっと込み入ったテーマで長時間話をしてしまいましたが、お客さん皆様が頷きながらしっかりと聞いてくださり、とても嬉しく思いました。

 チャリティーということをあまり気にしないでプログラムを組んで良いというようなことを牧師先生も仰ってくださり、いつも自由に弾かせてもらい大変感謝しております。

 また、いつも個性あふれるプログロムに付き合ってくださるピアノの小澤さんにも感謝の念に堪えません。


 次回は10月頃を予定しておりますが、今度も興味深く聞けるプログラムを組めるよう頑張ろうと思います。

 ここまでお読みいただきありがとうございました。次回のコンサートもよろしくお願いいたします。


 
 
 

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