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2025.11.14 モーツァルトとサロンの距離

  • 1月15日
  • 読了時間: 6分

更新日:1月21日

ウィンナーコーヒーとトルコ行進曲


プログラム

クライスラー:美しきロスマリン

モーツァルト:トルコ行進曲

トーク:自己紹介、イスラム世界とヨーロッパの関係、トルコ行進曲とコーヒーについて

モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第5番

休憩

トーク:告別について

ベートーヴェン:ピアノソナタ第26番「告別」

トーク:ブラームスサラサーテ解説、最後の曲について

ブラームス:7つの幻想曲集より、第1、第4、第7番

サラサーテ:魔笛による幻想曲



 今回で2度目となる宣教師館でのティータイム付きサロンコンサート。今回は同じ地元出身であるピアニストの五条玲緒さんと、モーツァルトをはじめとしたウィーンのプログラムを演奏しました。

 2日開催という思い切った決断をしましたが、どちらも満席となり、ご来場くださいました皆様には深く御礼申し上げます。また今回のコンサートもオーナーの榎戸様に支えられ、完遂することができました。重ねて御礼申し上げます。



 さて、今回のプログラムは"カフェと言えばコーヒー、コーヒーと言えばトルコ、トルコと言えばトルコ行進曲だよね"という一連の発想から企画がスタートしました。

 カフェに寄った企画をしたいと思ったとき、実はクラシック音楽の枠組みの中では取れる選択肢はそんなに多くありません。なぜなら、クラシック音楽は教会、宮廷、音楽ホール、サロンという場で演奏されることを前提に育ってきたからです。

 また当時のヨーロッパではカフェは議論の場であり、演奏の場ではありませんでした。

 そんなわけで、コーヒーとトルコの繋がりを導線としてモーツァルトを弾く流れは、振り返ってみると必然だったのかなと思います。


 そんなモーツァルトを演奏して、モーツァルトはサロンで弾くのが良いと感じました。これはかねてより感じていたことでもありますし、たまに言及されることでもあります。


 今回の後記では良い機会なので、クラシック音楽やクラシック音楽のコンサートの特性をモーツァルトに絡めて書いてみます。



 どこで読んだか、誰の言葉だったか今となっては調べても出てきませんが、"芸術は幸せな者を幸せにするものである"という意味合いの格言に、大学生の頃であったのを覚えています。芸術を芸術として楽しむには、鑑賞する側にそれなりの余裕がいるということです。

 直接は関係ありませんが、確か震災があった後でした。震災の時の映像を前にしたり、被災地の状況を聞いているときの音楽の無力感は、認識していたとは言え、改めて刺さるものがありました。


 この格言は実は新しい物ではありません。元をたどると古代から同じようなことをアリストテレスが言っています。

 

 アリストテレスはスコレー(余暇)とテオリア(観照)について語っています。

 スコレー(余暇)とは、単なる「暇」というよりは生存のための仕事・活動から解放された状態をさし、スクールの語源となりました。

 テオリア(観照)とは、理性によって客観的に物事を考え、感覚的知覚を超えた真理を求めることを言い、セオリーの語源となりました。


 アリストテレスはニコマコス倫理学の中で、「人間にとって最高の幸福(エウダイモニア)は、スコレーという自由な時間の中で、テオリアに専念することによって実現される」と考えました。 スコレーがテオリア的な活動の基盤となり、必要なことなのです。


 また、カントは美を「利害を伴わずに普遍的に快とされるものである。」と定義しています。

 ここで言う利害とは、欲望を満たすか、役に立つか、もしくは自身の生存や安全に関わるかというような切迫したような物を指します。


 古代中国よりある「衣食足りて礼節を知る」という故事も、大体同じだと言って良いでしょう。



 この話をもう少しだけ進めると、クラシック音楽は鑑賞する環境、状態も重要であると言うことになります。


 これは私がコンサートを自分で企画するようになって暫くして感じたことでもありました。


 例えばジャズと比較すると、ジャズは場に寄りそう音楽だと言えますが、クラシックは場を支配する音楽と言えます。ですから、食事や会話を楽しんでもらいたいのであれば、クラシックは不向きということになり、ジャズのように同時に提供するのではなく、前後に分けるのが理想となります。


 ここでちょっとしたポイントになるのが、クラシック音楽奏者は強制的に場を支配したいというのではなく、支配できる場で演奏したいということです。条件を整えなければ、音楽自体にはそこまでの強い力は無いからです。


 最初の話に戻るのですが、作曲家は演奏される場まで想定し、曲を書いています。だからバロックは教会で弾きたくなりますし、ロマン派以降の物であればホールで弾きたいのです。場に沿った曲を演奏するということに繋がります。



 ここまできて問題になるのが、ではモーツァルトはどういう場で演奏されるべきかということです。

 モーツァルトはウィーン古典派時代の作曲家で、貴族文化が成熟していた時代の作曲家です。非常に強い力を持つ王宮に求められ、そして見事にその要求に応えたのです。

 であれば、音の種類や数が、当時の会場や観客との距離に適合するように作られているはずです。


 立派なホールでモーツァルトを演奏したり聴いたりするときの、認めがたい虚しさのようなものは、ここに起因するのでしょう。はじめから大きな空間で演奏されることを前提とされているオペラや交響曲であればそんなことは感じませんが、室内楽曲以下の編成はどんなに名演奏家の舞台だったとしても、大きなホールでは寒々しさを感じます。


 また、モーツァルトが想定している観客は、王宮のサロン、そしてそこに出入りするような人です。または貴族が用意したオペラハウスに集う、音楽に強い興味を持つ市民です。

 そしてウィーン古典派は古代芸術に比較的強い影響を受けた区分でもあります。美と幸福についての感覚は、アリストテレスが語るものに近しいものがあったのではないでしょうか。貴族の生活を想像すると、確かに十分なスコレー(余暇)があり、テオリア(観照)に高い価値を見出している人々とも言えます。


 会場や観客にそのような状態を想定しているのであれば、現代日本にそのまま持ってきても上手く適合しません。



 そこに行くと、今回のサロンでの演奏は充実した心持で演奏を終えることができました。

 サロンには、ホールのような静謐で威圧的な緊張ではなく、穏やかな緊張があります。お客さんとの距離が近く奏者として必要以上に大きな音で弾くことを意識しなくてよかったこと、同じ空気感を共有しながらパフォーマンスできたことはサロンならではでしょう。またティータイムがあったためかお客さんが適度にリラックスしているのを最後まで感じました。

 "知っている曲"やトーク、出演者である私と五条さんが地元出身だというのも、心理的ハードルを下げるのに一役買っていたかもしれません。


 このリラックスした状態がカントの言う「利害に関さない」に適合し、モーツァルトの想定したであろう距離感、規模感と合致するのが、サロンコンサートなのでしょう。



 このような感覚は、もちろん私の主観によるところが大きいのですが、モーツァルトを楽しんで演奏する、もしくは楽しんでもらうには、やはりそれなりの準備が企画には必要なのかなと、改めて感じた本番となりました。


 

 この演奏後記は25年11月の物で、年をまたいでの執筆掲載となりますが、今年も様々な企画案がありますので、是非また足をお運びいただければと思います。

 改めまして、ご来場くださいました皆様、オーナーの榎戸様、そして忙しい中共演してくださった五条さん、ありがとうございました。

 
 
 

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